7月31日7時35分ごろ岩泉線押角~岩手大川駅間走行中の第683D列車(キハ110系1両編成)は、速度47Km/hで走行中、約94m前方の落石覆い出口付近に流入していた土砂を発見、非常ブレーキを扱ったが衝撃し、前2軸が脱線し、乗客3名と運転士が負傷するという事故が発生しました。
当該乗務員の所属分会である盛岡運輸区宮古派出分会は、支部キャンプ中に事故の一報を聞き職場に行き、分会役員2名が現場に駆けつけました。モーターカーで最後に救出された運転士、車掌は、職場の仲間の姿を見て「ほっとした」と語っています。
原因究明委員会で状況を語る
分会は、直ちに原因究明委員会を開催し、運転士、車掌から状況やその時の意識、問題点などの聞き取りを行ない意見を出し合いました。その中では「未然に防げなかったのか」などの意見も出されました。
土砂流失現場は、昭和31年に落石シェルターが設置されていた箇所であり、土砂は落石シェルター上部から崩れ、落石シェルターの岩泉方の線路に流出、そこに車両が衝突し脱線、落石シェルター内に停車し転落を免れました。上り列車であれば転落し大惨事となっていました。組合員からも「昭和31年に設置された落石シェルターが命を救った」「あの場所だけに落石シェルターが設置されているのは危険な場所だったからではないか、当時を知る人から話を聞くべき」など、岩泉線で唯一、落石シェルターが設置されていたから転落事故を未然に防ぐことができたという意見が多く出ました。
自然災害は、頻繁に発生することはありません。ましてや、自然災害を未然に防ぐことは難しいことですが、落石シェルターの設置は、当時土砂崩壊が発生したか、予測し設置したことは間違いありません。そうした事からも線区の歴史や特徴を熟知した管理者や指導員、乗務員を配置し危険箇所、要注意箇所などを受け継いでいくことが必要です。
死を覚悟した乗務員
当該の運転士、車掌は、落石シェルター出口の土砂を発見した瞬間、「死を覚悟した」と語っています。それは、経験者のみが感じた恐怖と、衝撃を物語っています。運転士は非常ブレーキを扱い、土砂に乗り上げるまでの数秒間に、土砂の量と崖に転落するのではないかと考え「逝った」と絶望したと語っています。とっさに足を突っ張ったことにより、幸い軽傷ですみました。
その後、車掌と連携して乗客の安否の確認を行うために、乗客の荷物が散乱している車内に向かい、鼻血を止血している乗客や体を押さえている乗客に声をかけ、重傷者がいないことを確認して「ほっと」しました。その後、橋梁やトンネル区間を400メートル走り沿線電話で第一報を連絡しました。その間、車掌は乗客の怪我の状況を確認、第二報で乗客の怪我の状況と車両状況を連絡し、救援を待ちました。
しかし、連絡してから2時間半、何の音沙汰もなく、乗客の不安を取り除くために運転士と車掌が協力して車内で待ちました。運転士が、救援の仕方を再度確認したところ、線路を歩かせる方法で検討しているとの返答がありましたが、運転士、車掌は負傷した乗客を橋梁やトンネルが続く線路を4キロも歩かせるのは無理と判断、そのことを指令に伝え、乗客の救助は、モーターカーに変更になり、ようやく5時間後に乗客が救助されました。
当該の運転士・車掌は、「このように冷静な対応ができたのはシェルター内に停止したことや、日頃の安全議論のなかで、現場第一主義が大事であることを学んだ。指令からの指示を待つことや受けるだけでなく、現場にいる運転士、車掌から要請をしていくことが大事だと思う」と語っています。また、運転士、車掌からは「同じ職場で日頃から人間関係があったから、お互い信頼し合い冷静な判断ができた」「指令に対しても現場にいる当事者が判断し要請することが安全を守ることにつながる」「分会で安全議論してきたが、自分は大丈夫という気持ちがあった。しかし実際大きな事故に遭遇して、命を基軸に議論してきたことが役立った」などの教訓が語られています。
安全なJRを確立するために
ローカル線は列車本数や乗客数からみて、常に設備投資や改善が後回しにされています。山間部を走るローカル線は、落石や土砂崩壊などの危険性を持っています。首都圏でもローカル線でも死傷事故が発生すれば、社会から指弾されます。
確かに民間企業であり、採算を考えずに設備投資を行うことはできません。しかし、一度事故が発生すれば莫大な経費や復旧にも時間を要し、信頼を失い乗客に迷惑をかけてしまいます。岩泉線も事故から1ヶ月以上経過しましたが、事故原因の調査などもあり復旧の見込みは立っていません。
ローカル線の事故を未然に防ぎ、安全輸送を確保するためには落石検知装置や落石シェルターなどハード面の対策も必要との声も出されています。また、今回現場も「携帯電話も通じない」「徒歩で避難させようとしても通路が整備されていない」などの問題点も出されています。今後も原因究明委員会を継続して、ローカル線における安全確保に向けて、問題点を出し合い提言を創り出していきます。