昨年5月2日、弘前駅構内で運転台交換時に列車が30㎝流転、その後、下り本線から発車する際にポイント制限速度25Km/hを失念し、強い衝撃を感じたため直ちにブレーキを使用した。速度計を確認したところ約56Km/hで速度超過したことに気付き、約1Km行き過ぎて停車しました。
会社は、①弘前駅での運転台交換時、列車が「流転」したことを報告しなかった、②列車の「流転」を気にしていて時刻表のポイント制限速度を確認していない、さらにポイント速度制限標も確認していない、③ポイント制限速度を超過し、衝撃を感じたにも関わらず直ちに停止しなかったことを問題として、速度超過は重大な事象であり、運転士の資質、メンタル面も含めて2カ月程度教導運転士を添乗させて見極めるとしました。
しかし、会社は5月11日と6月18日に行った訓練センターでのシミュレーター訓練の結果をもとに「運転士以外の職種が本人のため」と判断し、本人に「乗務不適」を通告しました。本人は、突然のことで動揺し、非常に悩みました。翌日、会社に「運転士をやらせてください」と申し出ましたが全く聞き入れられませんでした。
分会は、一方的な「ミス=乗務不適」は、組合員の生活を破壊する行為であり、運転士だけに責任転嫁する労務管理では安全は守れない。また、正直に報告できない、ものを言えない職場になってしまうという危機意識をもち、6月30日、7月1日の2日間緊急職場集会を開催しました。
背後要因は職場風土にある
原因究明委員会での本人からの聞き取りでは、①当該車両(485系)乗務員室の鍵が固いため車掌のこと考え、直通ブレーキ帯で運転台を離れて鍵を開けに行った際、ブレーキハンドルが体に触れブレーキが緩み列車が「流転」した、②列車の「流転」を報告するかしないか悩んだまま発車し、ポイント制限速度を失念した、③ポイント制限速度を超過したときも止まるか悩んでしまったなど、当時の意識が明らかになりました。また、背後要因として、①弘前駅下り本線からの発車は初めてであった、②弘前駅構内の勾配を知らなかった、③ミスを起こすと当直のホワイトボードに掲出されるので報告することを躊躇したことも明らかになりました。
緊急集会には、120名参加しました。組合員からは「シミュレーションは技術向上のためのものであって、乗務不適の判断に使うのはおかしい」「ミスをすれば降ろされるのが当たり前になっている」「乗務不適では報告できなくなる」など、一方的な「乗務不適」に対する怒りの声が噴出しました。また、原因については、①本来やるべき作業を省略している、②お客様を早く乗せたい、③ミスを報告したあとの処遇のことを考えている、④ポイントまで直線で距離があるため失念しやすいなど意見が多く出されました。そして、出された意見を集約して、自分たちが行うべき対策として、①車両のドアの改善を求める、②運転台交換後に車掌に引き継ぐ。会社に求めることとしては、①ポイント制限の速度照査を設置すること、②ホワイトボードを撤去することなどを確認しました。
また「乗務不適」に対して、①指導操縦者にどのような点を改善するべきか具体的な指導をしていない、②不適格の判断基準が明確でない、③シミュレーターは体験型の訓練設備であるのに、判断基準に活用されている、④「流転」の事象について、背後要因や対策などが議論されていないなど再乗務に向けた教育・指導がされていないことも明らかになりました。
原因究明することなく「対策」のみ主張する会社
地本は「運転士の単独乗務に向けた指導に関する緊急申し入れ」を提出し、原因究明と対策、乗務に向けての教育・見極めの実施を求め団体交渉を行ってきました。支社は、原因を明確にすることなく対策として、①弘前駅のポイントに速度照査を設置する、②ポイント速度制限標を設置すると回答、見極めの実施については「2ヶ月間教育・指導したが、これ以上は必要ないと判断した」との回答を繰り返し対立しました。交渉の中でも、なぜ報告できなかったのかなど背後要因が明確になっていません。そのため、再度申し入れを行いました。
原因究明委員会の重要性を認識
分会の反省点も多くあります。事象が発生した時に、命にかかわる重大な事象として捉えることができませんでした。そのため、原因究明委員会を開催することなく、当該乗務員を単独乗務から外し、教育・指導見習いを行うことを認めてしまったことです。
会社の体質は、ミスや事故を起こした運転士を排除する論理が蔓延しています。このような体質では、若い運転士を職場でベテラン運転士に育て上げることはできません。人間はミスを犯します。そのミスを教訓として対策を確立し、ミスを繰り返さないことが大切なことです。ましてや、背後要因を含めて原因を明らかにすることなく、具体的な指導もないにもかかわらず「乗務不適」では見せしめ以外のなにものでもありません。職場でのヒヤリハットやミスなどを出し合い、経験を語り合うことで、教訓や同種事故の再発防止につながります。事故=処分・乗務不適ではなく、安全風土を確立するためには、何でも話し合える風通しの良い明るい職場を創り上げていかなければなりません。
責任追及を許さず運転職場を確立しよう!
2010年4月20日、分会は「責任追及から原因究明」という安全哲学を職場に根付かせ、乗務員への復帰を勝ち取るために「4.20秋田集会」を開催しました。集会では、原因究明委員会の取り組みが報告され、パネルディスカッションでは、再教育時の弱点の明確化や克服するための具体的な教育方針などについて掘り下げた議論を行い、安全風土を創り上げるための教訓が示されました。そして、職場風土を変革し、原因究明委員会を強化して真の安全を再確立することを確認しました。
会社は、団体交渉で流転が背後要因であると認めましたが、規則や基本動作を守っていれば防げた。総合的な判断で乗務不適と判断したと繰り返し、弘前駅のポイントに速度制限標と速度照査を設置するなどの対策は行いましたが、流転やその他の背後要因には向かわず、真の原因究明と対策になっていません。
分会の原因究明委員会で速度超過は運転台交換時に発生した「流転」を職場に報告するか悩み、そのことに気を取られて制限を失念したことが明らかになりました。秋田運輸区は、ミスを起こした運転士や車掌が自己申告出来ない職場風土です。それは、当直の入り口にホワイトボードがあり、みせしめ的な書き込みをしているからです。分会は、自己申告出来ない職場風土や安全よりサービスが優先されている職場を変えるために、ホワイトボードの撤去、保安装置の設置と運転士としての弱点を克服するカリキュラム、運転士はドア扱いをしないこと、事象が発生したらきちんと自己申告するなど、自分たちがやるべきことと会社に求めていくことを導き出し、対策として打ち出しました。
会社の一方的な「ミス=乗務不適格」は、組合員の生活設計を破壊することであり、ミスをした当事者を乗務不適などとして処分する責任追及では安全風土は確立できません。今回の事象で正直に報告できないもの言えない職場であることに気付きました。
職場の中で、かんり、指導、乗務員が互いに信頼関係を強め、躊躇せずに自己申告できる職場を創り上げなければ事故の再発を防ぐことは出来ません。そして、真の安全教育によって、マニュアル化した運転ではなく間違いを指摘出来るような異常時に強いベテラン運転士をつくることが必要です。