安全への挑戦

国際鉄道安全会議 2009
安全第一!サービス第二!世界に力強く訴える!

 9月28日~30日、第19回国際鉄道安全会議がスウェーデン南部のボースタッド、スカンセンホテルで開催され、世界22カ国から150人の鉄道労使、事故調査官、政府機関、専門家が参加しました。
 国際鉄道安全会議は、1990年にJR東労組とJR東日本会社が労使で提唱し「鉄道復権のため安全な鉄道」を目指して、初めて東京で開始しました。今年19回目を迎え、世界的に環境問題などで鉄道輸送が見直される中で、鉄道の安全を共通テーマに活発な発表と討論が行われました。
 会場では、32のプレゼンテーションが行われ、JR東労組は、吉川書記長を団長に5人が参加し「鉄道事業における安全とサービス」(本部佐々木業務担当部長)と「黒磯駅構内感電死事故-原因究明委員会の取り組みと教訓」(大宮地本茅根業務担当部長)を発表しました。
 佐々木業務担当部長からは「安定・サービスより安全を第一に掲げるべきだ」「本来やるべきこととサービスが逆転し、安全がおろそかになっている」と鉄道のサービスのあり方について提言しました。また、大宮地本茅根業務担当部長からは、昨年の感電死亡事故を契機に原因究明委員会で議論し「ルールが守られない」真の原因は利益至上主義による工事・メンテナンスの要員不足と丸投げ体質による安全低下であり、改善することなしには事故は防げないと訴えました。
 JR東労組の二つの発表は、労働組合が現場労働者の安全問題に果たす役割の重要性について、参加者に強く訴えました。
 真実を語れる職場風土を創っていくこと、世界で鉄道の安全を創っていく最先頭に立つという決意を新たにしました。

世界に力強く発信!(発表要旨)

「鉄道事業における安全とサービス」

本部・佐々木業務担当部長
本部・佐々木業務担当部長

 列車を止めることができない。そんな事象がJR東日本で起きています。会社は、「危ないと思ったら列車を止める運動」や車掌が非常ブレーキを扱った事に対して「即賞」を行っています。ここまでやらなければ列車を止められなくなっている背景には、「安全と安定」また「安全とサービス」が同列に扱われていることに起因しているのではないでしょうか。いくつかの事象をあげると、①信号冒進したにもかかわらず、防護無線を発報していないこと。②車掌が体調不良を起こしたにも関わらず救急車を手配するどころか運転士がドア扱いを行ったこと。③駅の非常スイッチが扱われたにも関わらず車掌が列車を止めなかったことなど、明らかに運行が安全を上回っているといっても過言ではありません。ハインリッヒの法則からいっても間違いなく重大事故になりかねない事象が現れているその現実の背後要因を分析していく必要があります。
  安全第一を掲げスタートし22年経過した今日、第5次安全計画である「安全ビジョン2013」では、「安全」と「安定」の違いを示しています。しかし、これまで安全・安定輸送を同列に並べ双方をスパイラルに向上させて列車という商品の品質を高めるとし、安全と安定さらにサービスまでも一緒くたにし、現場では安全第一の精神が形骸化されてきています。したがって、前述したような事象が発生したり、「サービス」が安全を上回っているような、旅客に対する過剰な対応や車内放送などが目立つようになってきています。ホテルやレストラン、デパートなどとは違うサービスの概念が鉄道には必要です。これまでも労使で安全については真剣に議論してきました。さらに鉄道の安全向上に向けて鉄道における「サービス」のあり方について提言します。

1. 列車を止めることができない現実

① 傘挟まりを認めるも停止手配とらず(2008年8月26日)
三鷹駅で車掌が客扱いを終了しドアを閉扉した際、後ろから4両目のドアから傘が40㎝程度飛び出していることを認めた。その後、列車は起動開始したが、車掌は列車を止めることなく運転士に連絡し通過駅では徐行するように伝えた。

② 分岐器を速度超過し危険を感じるもその場で直ちに停止できなかった(2009年5月2日)
第9660M運転士は、弘前駅を発車し分岐器(制限速度25㎞)を約56㎞で通過し強い衝撃を感じ直ちにブレーキを扱ったが、その場で停車せず約1㎞走行し停車した。

③ 車両故障にも係わらず旅客運転を継続(2009年5月7日)
564S列車、横浜・新川崎駅間走行中、車掌スイッチユニット非常ブレーキ引きスイッチ継電器加圧用配線が断線し、走行不能となった。緊急処置を行い非常運転で隣接の新川崎まで運転した。しかし、その後回送運転にせず旅客を乗せたまま車両基地のある駅まで非常運転を継続した。

2. なぜ列車を止めることが出来ないのか

① 傘が40㎝車外に飛び出しているということは、ホーム上にいる旅客に対し、ケガをさせてしまう恐れがあることは容易に推測できます。運転士に対して「通過駅では徐行してくれ」といっていることからも、危険であるという認識はあります。では、なぜ列車を止めて処置できなかったのでしょうか。一つには「遅れ」が気になっていたのではないでしょうか。2007年5月、会社は朝のラッシュ時間帯に、指令の一斉放送で「定時運転確保のため、車掌はドア扱いをスムーズに行ってください」と全乗務員に定時運転を促しました。また、職場の指導もお詫び放送の徹底を行い、1,2分の遅れでも車掌のお詫び放送が常態化している。1,2分の遅れは遅れじゃないというと、旅客から苦情があった場合、お詫び放送をしたかしないかが問われています。

② 運転士は、この前段に弘前駅に到着し、折り返し運転のための機器扱い不良で電車を30㎝流転させてしまいました。まだ旅客を乗車させている訳ではないので、特に問題はありませんが、運転士は、このことが相当気になっていました。流転させたてことを指令に報告すべきか否か気になっていましたが、そのまま列車を運転し、ポイント制限25㎞hのところを約56㎞hで進入してしまいました。ポイントの手前でも速度に気づかず、大きな衝撃で乗務カバンが運転台から落ちて、やっと速度超過したことに気づいていることからも、それまで流転したことをどうしたらいいか、相当悩んでいたのです。また、この時点でも大きな衝撃を感じながらも、その場で停車せず、力行、ブレーキを繰り返しながら、約1㎞走向し、停車して、指令への報告を行いました。本来は速度超過した場合は、直ちに停車し、安全を確認しなければなりませんが、列車の遅れと、出来れば隠したいという思いから、このような事象が発生してしまいました。特に、この運転士が所属する職場では、何か事故を起こせば乗務外しや、みせしめ的な掲示が貼られるということが繰り返されていました。自らの評価なども気になって真実が語れない風土が職場の中にあることも指摘しておかなければなりません。

③ 564S列車は、駅間で走行不能となり、約2時間停車しました。車掌非常ブレーキ引スイッチ回路の断線であったため、短絡スイッチを扱い、隣接の新川崎駅まで運転し、約2時間30分の遅れで到着しました。本来であれば、回送で最寄りの電車基地まで行くのですが、旅客を乗せたまま、車両基地のある駅まで運転を行いました。その理由として、「回送にしようと思ったが、旅客からどうせ品川駅まで行くなら乗せてくれという要望があったから」ということでした。車掌非常ブレーキ引スイッチが効かない車両は、安全上極めて、不良な車両であり、旅客の命を預かる鉄道会社として信じられないものです。車両故障を起こしてしまったことは大きな問題ですが、だからといって不安な車両に乗客を乗せたまま走らせるということは運行優先そのものであると言わざるを得ません。また、仮に旅客からそれでもいいから乗せろと言われたから乗せたことが「お客様第一」「サービス」だというのであれば、大きな間違いです。

3. 問題は何か

 では、なぜこのような事象が発生してしまうのか。その原因を解明していく必要があります。しかし、会社は現場に対して「危ないと思ったら列車を止める運動」を提起しています。「危ない」と思ったら列車を止めることは、ごく当たり前のことであって、わざわざ「運動」としてやらなければ止められないことは、危機的な状況であると認識しなければなりません。しかしいま、現場では車掌が非常ブレーキをかけると200円、タオル、靴下などの「即賞」を行っています。非常引スイッチを扱ったら「即賞」などというのは本末転倒です。そもそも車掌の業務として、安全の確保があるのであり、引いたらものを出すというのは間違いです。なぜ列車を止めることが出来なくなってしまったのかについて、様々な角度からみていく必要があります。
一つには、列車を遅らせてはいけないという意識が強くなってきていることです。会社発足当初は、安全第一をはっきりと謳っていましたが、現在では「安全」と「安定」をスパイラルに向上させていくというように、現場には分かりにくい定義になっています。
そもそも「安全」と「安定」は、同列に並べられるものではありません。「安定輸送」を確保しようとすれば、何が何でも列車を走らせようとしてしまい、安全が脅かされてしまうのではないでしょうか。したがって、安全第一、安定第二と、はっきりと現場に分かりやすく示すべきです。
二つには、事故=処分という恐怖がはびこっているのではないでしょうか。過去に会社は、運転士が乗務中に列車を止めてトイレに行った事に対して、賃金カットをしたり、SAS(睡眠時無呼吸症候群)が原因でオーバーランしたにもかかわらず、処分しました。またその他にも、ヒューマンエラーに対しても背後要因も入れた原因究明よりも「なぜ手順通りやらなかった」「なぜ確認しなかった」という責任追及の姿勢が顕著に現れています。処分を受けた者や、ミスをした者は指導担当から外すなど、評価によって自らの出世や待遇が悪くなるという競争原理が煽られていることにあるのではないでしょうか。
そして三つ目には、安全よりもサービス重視の会社に変わってきていることが非常に危惧される点です。会社はお客様満足の向上を掲げ、原点はお客様の声であるとし、精神的サービス、接遇サービス、機能的サービスの3つを高めていくとしています。特に現場では精神と接遇について、あらゆる手法で行われています。その典型は、社員が社員をほめるという「ほめほめカード」というものがあります。「あなたの放送が素晴らしかった」「基本動作の声が大きくてよかった」「笑顔でお客様に接していました」などとほめ合い、それを全員にわかるように、職場に張りだしています。これも自分の名前が出ているかが気になり、そのことによって評価されるためにということばかり意識し、本来業務よりもほめられるためにどうするかとなってしまうのです。
また、お客様の声が原点ということで「サービスメモ」などと称して、お客様からの声を出す制度などもあります。これも誰が、何件出したかということを競い合っているのが現実です。
このように、社員の競争意識を煽り、それが評価につながっていることから、本来やるべきことと「サービス」が逆転し、鉄道の安全が疎かになっているのです。したがって、お客様の満足ばかりを気にしているから、1,2分遅れても謝罪や不安全な車両にもかかわらず、運転してしまうということが発生しているのです。

4. 鉄道輸送におけるサービスとは何か

 運転士が乗務中の折り返し時間や待機時間等で子供に記念乗車証を渡すということが行われています。お客様サービスの一環としての取り組みで、会社は安全を踏まえつつ出来る範囲で配付してお客様に喜んで貰うことが目的であるとしています。この記念乗車証の配付そのものについても、本当にこれが鉄道輸送にとっての「サービス」なのか疑問はありますが、最も問題なのは運転士が運転業務を行っている中で配付するということです。ヒューマンファクターの観点からみても、常に危険を想定し、いかにその危険を最小限のものにするのかということでヒューマンエラーを避けることが大切なのですが、このことはさらにヒューマンエラーを助長させるものであると指摘しなければなりません。したがって、乗務労働の特殊性を否定しているといっても過言ではありません。仮にその記念乗車証でお客様を喜ばせる、楽しんで貰うのであれば、直接列車運行に関わる者が行うのではなく、そのための要員を確保すべきです。「安全を確保した中で」「余裕があれば」というのは、逆に言えば何かミスをしたら「そこまでやれとはいっていない」と、ミスをした者が責任を取らされる危険があります。したがって、マネジメントとしてもこの「サービス」は、安全を脅かしていることを自覚しなければなりません。
鉄道輸送における最大のサービスは、安全に旅客を目的地まで輸送することです。そのために異常時などに的確に対応できる能力を不断に高めていくことが重要です。安全のためには安定した輸送が安全性を高めるというのですが、このことは全くの逆の作用であって、安全の担保が一つでも欠けていれば絶対に列車は動かさないという考え方が大切なのです。
だからといって安定輸送を追求することは、全く否定するものではなりません。その安定輸送が損なわれた原因をきちんと解明し、対策をとることが求められているのです。設備や車両の故障であれば、なぜその故障が発生し、しからばこういう対策をとるということが経営者のやるべきことです。しかし現状は、無理な工事や下請けへの丸投げ的な施策にも係わらず、事故を起こせば現場のみの責任で終わらせていることが多いのではないでしょうか。また、人身事故や踏切事故などの復旧にあたっても、早く動かそうという意識が先行してしまうので現場の状況をよく確認せず列車を動かし、あわやということが起こってしまうケースもあります。また、当該列車以外の乗務員には情報があまりなく、旅客への案内も同じことの繰り返しです。特にこのような場合の旅客への「サービス」は、車掌や駅員による謝罪だけではなく、列車を止めていることの理解を促すための情報や目的地までの代替輸送などの情報をどのようにするかが重要です。
前述したように、過度な競争をさせていては安全は脅かされてしまいます。列車を安全のために止めることが出来ることと、絶対の安全はあり得ないことを前提とした乗務員の養成をすることが鉄道輸送の旅客に対する最大のサービスです。
したがって、私たちJR東労組は、安全第一、安定第二ということを明確にします。これが真のお客様視点に立ったサービスです。管理強化や処分、事故に対する責任追及では安全は確立できません。これからも世界の皆さんと鉄道の安全を目指して議論を深めていきましょう。

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黒磯駅構内感電死亡事故 ―原因究明委員会の取り組み

1. 感電死亡事故発生

大宮地本・茅根業務担当部長
大宮地本・茅根業務担当部長

 2008年9月17日(水)3時43分、東北本線黒磯駅構内において、電源区分用セクションのがいし取替工事作業中のパートナー会社の作業員が、誤って1,500Vの加圧部分に触れ、感電死亡するという痛ましい事故が発生しました。鉄道経験15年32歳という若さで、鉄道輸送の犠牲に遭われてしまいました。
今回事故の発生した「黒磯構内」は、交流電源(20,000V)と直流電源(1,500V)が混在する電源系統が複雑な箇所であり、設備保守・保全をする上でもっとも大変な構内です。また、JR東日本管内で唯一残っている、交流電源と直流電源が入り交じる特殊な構内です。駅に到着した交流・直流それぞれの機関車が入換えを行い、発車していきます。き電停止パターンも複雑であり、停電の実質時間は約「30分程度」と停電作業を行う上でもっとも注意すべき箇所です。
私たちの働く環境は高所、列車の往来する中、また見えない電気を相手に作業する為作業の手順や打ち合わせが不足すれば、「死」と直結します。そのため、作業前には入念な打合せを行い、停電の確認、線路閉鎖の確認、作業範囲とJRの監督者とパートナー会社の責任者が打合せを行い、相互にサインを交わします。そして、当日の作業前、作業員を交えて打ち合わせを行い作業に着手という多くのチェック体制を確立した中で作業を行っています。
この手続きはこの間多くの線路内で働く労働者の事故から学び創られてきたチェック体制です。では何故このような痛ましい事故が発生してしまったのでしょうか?
私たちJR東労組大宮地本は、事故原因と対策を策定するために職場に「原因究明委員会」を起ち上げ、職場から議論を創り出してきました。

2. 当日の作業変更

 事故当日の作業体制は、工事指揮者・線閉責任者・断路器操作責任者のいずれも下請けのB社から元請けA社へ出向している3名とA社からは孫請けにあたるC社作業員15名とD社作業員4名の計22名で、ちょう架線がいし取替え作業を行っていました。
また、感電死した孫請けにあたるD社社員の勤務状況は、9月の10日から13日まで4日連続で昼夜シフトで働き、1日の休みを挟んで、15・16日の2連続夜間シフト作業の時に事故が発生しました。
① 8月29日・30日、感電事故が発生した同じ現場での作業があり、その時に使用した打合せ票をコピーして使用しました。作業当日は電気が流れている箇所にも停電の記しが入っていました。これは作業が同じ箇所であったので、停電箇所も同じと思いこんだ結果です。
② A社は、その後当初計画していた作業箇所Yが事前に終了している事に気付き、未実施箇所である当該箇所(事故箇所)Xの取替に作業を変更しようと考えました。
③ A社はJRとの打合せ時に、作業の変更を考えていましたが、当日の作業者(C、D社)との打合せが出来ていないため、内容を変更せずにFAXにてJRに送付、打合せを実施しました。
④ A社は、その後作業者との打合せを実施し、作業の変更は可能と判断しました。しかし発注者であるJRとの打ち合わせはできていませんでした。
⑤ しかし、作業前に行わなければならない検電・接地を実施せずに作業に従事しました。
このように、実際は停電となっていない箇所Xで作業が実施されました。A社はC社、D社と打合せに使用する「保安打合せ票」の停電箇所のチェックを見落としたこと、作業箇所の変更をJRに無断で実施したこと、作業箇所への検電・接地を行わなかったことが今回の惨事に繋がった直接の原因でした。

3. 背後要因

① さらに事故の原因をつくった問題として、本来保安打合せに付属する図面はカラーで作成し、停電区間をわかりやすくすべきものですが、A社がカラーで作成してもJR側へFAXで送付すると白黒で見づらくなってしまう、FAX機能の問題がありました。
② パートナー会社が保安打ち合わせ票や作業計画の変更をJRのメンテナンスセンターと打ち合わせをしたいが、要員不足で出勤している社員の数が少なく、変更打ち合わせが出来ませんでした。
③ き電停止で作業をするのに3ヶ月も前から上申しなくてはならず、作業変更や承認が出来づらい。
④ 2ヶ月前の施行通知書発行のため、計画した時期までに作業ができるかわかりません。
⑤ 本来、JRから工事を請け負った元請けの会社(A社)で工事指揮者を立てるべきところが、人がいないため下請け会社(B社)から逆出向で対応しています。

4. 交通量の多い中での作業

① ゆとりある時間で作業するべきところ、今回の場所は、交・直切替えのため実質25分しか作業時間が取れません。このことは、列車の通行量が多いことによります。
② 十分な間合いが確保出来るのは貨物列車の通行が制限される年3回の期間だけになってしまいます。
このような現場の現実と事故原因が明らかにされました。現実が明らかになる事で、今回の事故が、作業者のミスや知識不足ではないことが明らかになり、今の作業環境に問題があるのではないかということに問題を掘り下げる事が出来ました。

5. 会社が行った事故後の対策

 会社の決めた「ルール」では、「停電無くして作業無し」とし、必ず停電した後に作業する事となっています。感電死亡事故を受けて大宮支社がまず行ったことは、ルールが守られていないため発生したと断定し、それに基づく「再発事故防止」を掲げた一方的な教育でした。
そして極めつけは「知悉度確認テスト」でした。教育の中身は、ルールの再教育を行い、テストの基準に達しない場合は、JR・パートナー会社含めて、合格するまで追試を行うという内容でした。しかし、「ルール」を何故守れなかったのかについては触れられず、「最低限のルール」を知ってほしいという事で実施されました。ルールを守らなかった事だけが今回の事故の原因かといえば違います。
さらに会社は事故対策として、
① 検電を目で見て確認すること。
② カラーFAXの導入
③ JRとの打合せ終了後は原則作業変更の禁止
④ 安全パトロールの強化
などが出されました。しかしこの対策はこれまで基本としてあったものの再徹底であり、あたかも現場がルールを守っていないから、この事故が発生したのであり、ルールを厳正に守れと言っているに過ぎない内容のものでした。

6. 労働組合の「原因究明」のたたかい

 JR東労組大宮地本は直ちに申6号を緊急に申し入れ団体交渉を行いました。私たちの主張は、背後要因が明らかになる前の「知悉度テスト」は、意味がないので中止するようにと会社に求めてきました。
しかし大宮支社は「基本的ルールが守られていないことが原因のひとつである」とか「最低限のルールを知っていて欲しい」として、背後要因が明らかになっていないにもかかわらずテストを正当化しました。結局テストも本社からの指示であり、支社も現場も本社にはさからえない、上意下達の官僚主義の結果である事が明らかになりました。
団体交渉では電力職場の仲間を中心として「本社は現場実態を知っているのか」「事故再発防止になっていない」「一方的なテスト実施の矛盾」等の怒りの声を挙げましたが、現場で働く、現場を良く知っている我々の声をまったく受け入れず、会社は「基本ルール」を守っていないから、事故が発生したというスタンスを変えることはありませんでした。
そこで、「何故ルールが守られなかったのか」「決められたルールを守る為にはどうすれば良いのか」を視点に「原因究明委員会」で再度、現場の視点から議論を行いました。そして、議論を通じて明らかになったことは、
① JR社員、下請け会社共に、現場における適正要員が確保されていないこと
② 複雑な手順と工事数を増やさなくてはならない請負工事契約の問題点
③ 若手が多くベテランが退職時期を迎え、制度変更により現場に出なくなった若手が設備現場の状況を把握出来ていないこと
などが上げられ、ルールを守れない、保安設備を活用出来ない現状にある事が明らかになりました。

7. JR本社の施策の問題―安全の委託

 さらに会社の施策の問題として、以下のことが提起されました。
JRの設備部門は、8年前に設備21施策が実施され、JRが設備管理を行い施工はパートナー会社が行うという設備部門の再編成が行われました。工事は責任施工体制となり、現場作業に関する安全はパートナー会社に委託しています。安全の委託とは、言葉は良いですが、丸投げのような体制になっています。今回の事故では孫請け会社から作業責任者クラスをパートナー会社に出向させ、身分を工事指揮者とする『出向工事指揮者』でした。
丸投げの構造はJRからパートナー会社へそこから孫請け会社へいく流れになっています。今のパートナー会社の実態は、出向工事指揮者がいなければ工事が出来ません。また一方、JRの実態も工事を契約してしまえばあとはパートナー会社に『お願いします』で監督員は次の工事へと取り掛かかるので、工事の途中が抜けてしまい、施工管理とは、名ばかりで、竣功数量でしか工事の把握が出来ません。
契約さえすませれば互いが、下に丸投げ、後はよろしく!まさに責任施工体制の欠陥です。この悪循環を変えない限り、事故の連鎖は永遠に続きます。また「会社には物が言えない」言えば「処分が出るから怖い」といった管理の問題までも真の安全を脅かす事に繋がっているのだということが解りました。

8. 今後の私たちの課題

 この間、線路内で働く多くの仲間の尊い犠牲の上に出来たルールや保安設備を使用するのは、現場です。その現場が使用出来ないのであれば、どんなに良い「ルール」も「保安設備」も紙切れや石ころ同様のものとなってしまいます。現場の声に耳を傾ける事が安全対策にとって重要なことです。今必要な事は、
① 必要な要員を確保すること
② 安全を阻害する外注化を見直すこと
③ 様々な事故の上に立てられた対策を再度検討し、保安打合せ等のチェックリストの見直しを図ること
④ 経験と技術が生かせ、継承が出来る職場を再構築すること
であると考えます。

 事故発生から約1年が経過しましたが、今年もまた9月10日に、東北新幹線仙台駅構内で、鉄道で働く仲間の命が奪われてしまいました。このような事から見ても、事故の連鎖は未だに止まっていません。
私たちが考える「安全」は「現場の現実から学び、当事者が真実を語る」という事です。今の職場に必要なのは、事故の原因と対策について真実を語れる職場風土を確立することです。真実が語られなければ「事故から学ぶ」ことなど到底出来ません。
私たちは「現場第一」「責任追及から原因究明へ」「安全は労使でつくるもの」をかかげ、労使で鉄道の安全を追求してきました。
今必要なのは、労使が真摯に議論し安全という共通の目的に向かっていくことです。会社も現場労働者の声に耳を傾けるべきです。
最後の安全を担うのは現場で働く私たち労働者です。私たちのコンセプトである「命は絶対の価値観」を職場からの議論とたたかいによって切り拓いていきます。

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